。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅴ・*・。。*・。


だが、“愛してる”から、その人と結婚したい、もっと平たく言えば子孫を残したい、と言う気持ちにはならなかった。


本当に意味で“愛”を知るのはもっと後―――


そうだな、和則が生まれた瞬間だ。


付き合いが三か月程経ったとき、その日僕たちはファミレスで晩御飯を食べ終え、椿紀を彼女の家に送って行こうかと思ったが、彼女が僕のシャツの裾を軽く引っ張り


「まだ―――、一緒に居たい……」


と、遠慮がちに言われたとき、それが何を意味するのか分かっていた。


僕たちは何となく近くにあったラブホテルに向かい、その日はじめてベッドを共にした。


行為の最中は部屋が暗かったのもあり、僕の代紋に気づかれることはなかったが、その後一緒に風呂に入ろうと椿紀に言われたとき、流石に戸惑った。なかなか積極的な提案に嬉しいのと……戸惑ったのと。


「えーっと……」と、こめかみを掻いていると


「何?したことしたらもう終わり?」と椿紀がむくれて、結局彼女の希望通り入ることにした。


どうやら彼女の「一緒にお風呂に入る」と言うのは愛情表現の一つのようだ。


しかし


僕の代紋を見て、その筋の男だと気づかれると、椿紀が恐れて逃げていくことが容易に想像できたが、


隠していてもいつかはバレる気がしたし、夢のようなひとときの終わりが早いか遅いかの違いだ。




最後の最後―――だと思うと、酷く胸が痛んだ。




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