。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅴ・*・。。*・。


それから三年程、椿紀との関係は続いた。椿紀は僕がヤクザ者だと知っても態度を変えることはなかった。


変わらず笑うし、時々怒る。


口喧嘩だってした。それでもすぐに仲直り。


そのとき世話になっていた鴇田のおやっさんには椿紀の存在を隠していた。


知られても構わなかったが、「カタギの娘さんと?」と、良い気をされないのは分かっていたから。そこに深い意味はなかった。


それに鴇田組は約30人の構成員を抱える大所帯。構成員たちのトラブルが絶えず、おまけに二人の愚息に手を焼いていたフシもある。


僕の交際なんてきっと小さな問題だったに違いない。おやっさんは亡くなるまで、椿紀の存在を知らずに逝ってしまった。


椿紀との関係の終わりは唐突にやってきた。


それは大学卒業間近だった。



「恵一、私―――……あなたとの子が」



と、腹部を押さえながら相談されたとき、僕の目の前が真っ黒に染め上げられた。


世間一般的、“愛し合ってる”二人にとっては喜ばしいことだが、僕にとっては大きな枷にしかならない。


酷いだろ?こんな男。


もちろん、椿紀にはすぐに堕胎を勧めた。


そのときの僕は―――未来があやふやと言うありきたりな理由ではなく、ただ単にこれ以上椿紀に極道には関わって欲しくなかった。危険にさらしたくなかった。


何より、弱みを持つとそれを逆手に取られて利用される可能性が強かった。それを避けたかったのだ。


だからいずれ僕の方から別れを切り出すつもりが、僕自身の気持ちが膨れ上がって、その“いつか”が伸び伸びになっていたのもいけなかった。まさかの出来事に面食らった。


僕の勧めも椿紀は強固に受け入れなかった。


僕は誰とも結婚するつもりもなかったし、ましてや子供を作る気もなかった。


素直にそれを説明しても、椿紀は


「別に籍を入れてほしいとか結婚して欲しいとか思ってないわ。


あなたがそれを望んでないこと―――薄々気づいていたから」


でも、軽い遊びではなかった。


僕は本気で椿紀を―――


いや、今は止そう。だが、今なら言える。





僕の気持ちは本物だったって言うことを―――





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