。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅴ・*・。。*・。
僕の話を一通り聞いた椿紀は顔を真っ青にして、小さな和則をぎゅっと抱きしめた。
「私はどうなってもいい。でも、この子だけは!」
と椿紀は悲痛な面持ちで僕に縋ってきた。
「僕は君も和則も守り抜く。だけどこの場所で居続けるのは危険だ」
「でも……どこに行けば……?」
正直海外に行くのが一番だと踏んだが、経済的環境や、僕の目に届く場所に居て欲しかったのもある、僕は東京に行くことも考えた。
ただし、鴇田組にかくまうわけには行かない。
どこで誰かの口から“片割れ”に気づかれてしまうかもしれなかったから。
考え抜いた末、僕は千葉に行くよう進言した。
東京からそれ程離れていないが、“片割れ”に気づかれる恐れが少し薄らぐ。
その夜僕は誰にも何も言わず、伊予原親子を連れ出した。
一週間ホテルに滞在してもらい、その間彼女たちが住む家を手配した。最初は―――小さなマンションだった。だがセキュリティ面はしっかりしている。
彼女たちをそこに移すと、僕は彼女たちに生活費の援助をはじめた。だが、ここでも問題があった。振り込みなどの形跡を残せない。口座の金の流れを掴まれる恐れがあるからだ。
と言うわけで、月に一度僕は現金で彼女のマンションに出向き渡した。もちろん尾行がついてないかいつも周りを気にして慎重に。
和則と会えるのはその月のたった一日。毎月、綱渡りをしているようなものだったが、それでも僕は―――
和則と会うのが楽しみで、そしてゆっくりと成長していく彼の姿を目にすると幸せになり、
こんな日陰の身からいつか陽の光をあてさせてあげたいと切実に思った。
やがて和則が小学校に通う年齢になると、僕は伊予原 和則として、学校に通うことを勧めた。
いつまでもマンションに隠れて生活させるわけにはいかない。