godlh
「は、走れ。」
「言われなくても、は、走ってるだろ。」
僕も、惟も、全力で走り続けた。
無我夢中で走っているせいで、どこをどう駆け抜けてきたのか、そんな事は全然わからなかった。ただ、あいつから逃げる、それだけを考えて走り続けた。
どれくらい走っただろう。たぶん、人生の中で一番走ったはずだ。そのせいだろう、足がもつれて思い切り転んだ。
僕は、どうしてこうも運が悪いんだろう。転んだだけじゃなく、その時に誰かにぶつかった。
「愛内さん？」
彼女が出した声に、僕は一瞬で反応した。
「一之江君？」
彼女の表情は、なんで僕がここにいるんだろう？、そんな感じだった。
「大丈夫？」
ここで、手を差し出したりしたら格好いいんだろうけど、僕にはそんな気の利いた事は出来なかった。手のひらをギュッと握るだけだった。
そんな僕を、少し寂しそうな眼で見つめた。
「あれっ。」
彼女の眼が、真っ赤になっているのに気がついた。もしかしたら、今ぶつかった時になったんじゃないか、そんな不安にかられた。
「俺、眼にぶつかった？」
慌てて駆け寄った。彼女は、不思議そうな顔をしている。いや、不思議そうと言うよりは、少しうれしそうだった。
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表紙・目次

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