godlh
「秀郎・・・。」
最初に口を開いたのは、惟だった。
僕はわざと聞こえないフリをして、そのまま、愛内さんの背中を見ていた。
「秀郎。」
その事に、惟は気がついていた。僕の肩に手をのせ、自分の方に向かせた。
「わかっているよ。」
どう考えても、彼女の真っ赤な瞳はネットに書いてあった情報の通りだった。もし、あそこに書いてあった情報が本当だとしたら、彼女はどうなるのかわかっていた。ただ、信じたくはなかった。
「でも、今は何も言わないでくれよ。」
これ以上、この話を続けたらどうなってしまうのか、怖くて堪らなかった。
「何でだよっ。」
惟も、事の重大さをよくわかっていた。わかっていたからこそ、僕に強く言ってきた。
「現実に目を向けなくちゃ、愛内がいなくなっちゃうかもしれないんだぜ。」
「いいのかよっ。」
「いいわけないだろっ。」
「だったら、愛内を守ってやれよ。」
「守りたいよ。守りたいと思ったから、これを買ったんだ。」
僕は“銀のナイフ”を取り出した。ちょっと、高級そうなレストランに置いてありそうな“銀のナイフ”、それが僕の手の平の中で、情けなく輝いていた。
「この間、様子がおかしかったのは、これを買いに行ったのか・・・。」
惟は少し呆れていた。
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