godlh
屈辱
 今朝は、問題がいっぱいだったらしい。
 
 「おい。お前だよ。お前。」
 明らかに因縁をつけていた。
そして、こんな古典的な因縁をつけていたのは、哲のクラスの問題児、野宮だった。
 その野宮は、朝から機嫌が悪かったらしい。理由は、朝ご飯に嫌いな納豆があったとか、単に寝不足だとか、はた迷惑な理由だろう。いつも、そんな感じだ。そして、そんな日は必ずと言って良いほど、誰彼構わず、こんな風に因縁をつけていた。
 今日も、そんな野宮に目をつけられた奴がいた。
 「聞いているのかよ?」
 野宮が凄んでも、相手は涼しい顔をして相手にする様子はなかった。そんな様子が気に入らなかったのだろう、野宮はさらに凄んだ。
 「ふざけてんじゃねえよ。」
 そう言いながら、掴みかかろうとした。その瞬間、ムチで何かを叩くような音がした。
 でも、野宮はそんな音はどうでもいいと言った感じで、相手の胸ぐらを掴んだ。が、力が入らない。力が入らないどころか、立っている事も困難になっていた。
 ―――何が起きたんだ?
 何が起きたかわからないせいで、野宮は軽いパニックになった。本能的に、やらなければやられる、そんな不安が頭を過ぎった。相手に対して、全身の力を拳に集中させ、そして振り上げた。
 いつもなら、その拳でどんな奴もぶちのめしてきた。
 こいつもぶちのめせる、はじめは、そう思っていた。

 現実は、そういかなかった・・・。
 
 口の中が、鉄の味でいっぱいになった。
 瞼は腫れて、もう、何も視る事が出来なくなった。
 胃に詰まった全てのものが、いっせいに逆流し、それを止める事が出来なかった。
 
 今まで味わった事のない屈辱が、野宮を襲った。
 
 ―――ちくしょう。ちくしょう。

 気持ちは、ムカついて、ムカついて、ムカついて、どうしようもなかった。
 けれども、野宮の体はボロボロだった。自由を奪われた体では、どうしようもなかった。

 流れた涙が、拡がった血の色を薄いピンク色に変えていった。
< 11 / 206 >

この作品をシェア

pagetop