godlh
愛内さんの瞳は紅かった。
あれは、紛れもない死神の許嫁の証だ。彼女の澄みきった瞳が全て真っ赤に染まった時、婚姻の儀式がはじまってしまう。そうなったら、愛内さんはその大鎌に命を刈られ、天国と地獄の間にある息苦しい世界の住人になってしまう。あいつと永遠に、光のない世界で過ごす事になってしまう。
そんな事は許せなかった。
そう考え、気持ちを奮い立たせた。
バケツに、思い切り力強く手を突っ込んだ。
柔らかい感触が手のひらの中で、ゆっくりと動く。とても嫌な感覚だ。もし、愛内さんの事がなかったら、一生こんな事をやる事はないだろう。
その柔らかいものを、持てるだけ掴み取り出した。
そして、机の上に拡げた新聞紙の上に拡げた。拡げた姿は、まるでひとつの生き物のようにも見えた。
「う、うぅ・・・。」
蛍光灯の光に照らされた、無数のミミズは何かを訴えるように右へ、左へと体を動かしている。
「大丈夫か?秀郎。」
「だ、大丈夫。」
そうは言ったものの、なかなか踏み出す事は出来ない。
バケツの中に入っているミミズを、無数のミミズを取り出すまでは、一生分の我慢を注ぎ込んでやった。自分で、自分を褒めてやりたい、そう思ったくらいだ。
でも、ここからは一生分の我慢じゃ足りない。
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