godlh
 僕が覚えているのはそこまでだ。
 そこから先は覚えていない。
 彼女に助けてもらった興奮と、英語の授業で指された緊張、わからない事を無理してやろうとした疲れ、そんなものが一気に流れ込んできて、僕は倒れた。
 その次に覚えているのは、保健室の独特の匂いだった。

 保健室の匂いで僕の体は満たされていた。その影響なのだろうか、僕の心臓は変な自己主張をしていた。例えるなら、胸を締め付けられるようなそんな感じだ。今まで感じた事のないこの感覚に、全身に違和感を覚え、自分の体じゃないように感じた。
 「格好悪いなぁ。」
 そう言いながら、惟が突然カーテンを開けた。
 「うわぁぁ。何すんだよっ。」
 惟を怒鳴りつけた。けど、僕の気持ちは一気にしぼんだ。惟の後ろに、愛内さんの姿が見えたからだ。
 僕の様子がおかしい事に、惟はすぐに気がついた。
 「愛内がさ、お前の事が、心配だってついてきたんだよ。」
 その言葉を合図にして、愛内さんが、僕のベッドの横に来た。さっきの変な自己主張が、いっそう激しくなった。
 ―――なんだ?なんなんだ?
 一生分の鼓動を、今打ち尽くそうとするくらいに、鼓動は激しくなっていた。そして、心臓から押し出された大量の血液が、僕の顔を真っ赤に染めた。
 ―――なんなんだぁぁぁぁ?
 「大丈夫?」
 彼女の言葉が、右から左へ流れていく。
 ―――何か答えなきゃ。
 そう思っても、何も頭に浮かんでこない。僕は仕方なくうつむいた。
 「まだ、元気なさそうだね・・・。私、教室に戻るね。」
 愛内さんは、そう惟に言うと保健室を出て行ってしまった。

 彼女ときちんと話した最初で、最後の一日だった。
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