godlh
転校生
 女子は、色めきだっていた。
 男子は、目を合わせようともしなかった。

 「はい。静かに。転校生を紹介する。」
 黒板の前に立っていたのは、僕と惟が朝会ったあいつだった。まさか、愛内さんのクラスにあいつが転校してくるなんて夢にも思わなかった。
 そして、クラス中の男子は、僕がそうだったように、強大な恐怖に、あいつの目を、いや顔すら見ようとするものはいなかった。対して、女子たちには、そんな恐怖感は伝わらないのか、それともそんな雰囲気が逆に女子の心を掴んだのか、クラス中の女子は、あいつの顔に見とれていた。
 「彫野明人君だ。以前までは、アメリカにいたそうだ。日本の事でよくわからない事も多いと思うから、みんな、色々教えてやってくれ。」
 担任の言葉に、返事をしたのは女子だけだった。
 「席は・・・。」
 普通、転校生のせいと言うのは、クラスの後ろとか、前の方とか、どっかしら隅に用意されているものだ。実際に、僕のクラスに転校生が来た時にもそうだったし、みんなもそんなものだと思っていたはずだ。
 それなのに、なぜかクラスの真ん中にいる愛内さんの、愛内さんの席の隣が空いていた。
 「愛内の隣が空いていたな。そこの席を使うように。」
 この言葉に、何人かの生徒が違和感を覚えた。けれども、それが何を意味するかはわかる事はなく、そのまま口にする事はなかった。
 そして、あいつは、まるでその席が、前から自分の席だったかのように、ドカッと座った。その口元は、うっすら笑みが浮かんでいるように見えた。
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