【完】神様のうそ、食べた。
「橘(たちばな)さんが、心配してたんで様子を見させてもらいました」
「橘って、へ?」
「俺、蓮川さんと入れ替わりで大分の方に移動したから。橘さんが本当に心配してましたよ」
そ、そう言われた瞬間、頭が真っ白になった。
有沢さんは、本当に悪気なく、頼まれただけなのかもしれないし、
橘という上司が私には確かにいた。
鬼のように厳しい、怖くて煙草臭い上司が。
でも。
私は『寿退社』したんだ。
寿退社した後で、婚約破棄されてこの地元に帰ってきた。
――だから私が大分に居ることを、まだ誰も知らないはずなのに。
どっくん。
その瞬間、重い何かが心臓をギュッと締め付けた。
締めつけて、全身から血を奪い、頭が真っ白になるような。
――考えてはいけない、嫌な予感が。
「蓮川さん? 大丈夫ですか?」
また顔を覗かれて、ふらりと足元が揺れる気がした。
どうしよう。怖い。怖い。怖い。
有沢さんがよろける私の腕を掴み、支えてくれた瞬間だった。
「みなみから離れろ!」
目が痛くなるようなライトに、私と有沢さんは手で目を隠すと、ばっと離れた。