【完】神様のうそ、食べた。


「今、みなみに触ってたろ。お前!」

興奮気味の声は、――侑哉だった。

けれど、新しいバイクから降りるのにちょっとだけもたついている。
そのタイミングで、ちょうどバスが来たので、私は有沢さんをバスに押し込んだ。

「蓮川さん!?」

「すいません。侑哉、怒ると私じゃ手に負えないので」

「あ、こら、逃げるな!」

やっとバイクから降りれた侑哉に、私は抱きつく。


「みなみ?」


侑哉の胸は、冷たい風を帯びていたせいか冷たくて気持ちいい。



「ばれたかも」

「ん?」



「会社の人に、婚約破棄、ばれたかも……」


ギュウッと侑哉の服の袖を握りしめて、そう吐きだす。

吐きだした瞬間、私の心臓を握り潰していた黒い物が、形を作り私に覆いかぶさろうと蠢く。



「や、社長にだけは報告してんだよ? でも同僚には、


同僚には怖くて言えなかったんだ」

ポロポロと声もなく泣きだした私に、侑哉は優しく頭を撫でる。
それが、気持ちよくて、不安や恐怖を撫で落としてくれているようで。


少し、気持ちが落ち着いてきた。



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