【完】神様のうそ、食べた。
「今日は引っ越し祝いに飲みに行こうよ」
「えー?」
「オシャレなとこ知ってるんだ」
そう振り返ると、生意気そうに笑った。
いつの間にそんな所行けるようになったんだか。
そういや、泣いた私を抱きしめたあの日も、慣れていた気がする。
大きな背中、ごつごつした指、大人っぽくなった目元。
――今日から私たちは、一緒の家で暮らす。
お母さんは、侑哉が成人すると同時に、大好きなお父さんが単身赴任している東京に行ってしまったし。
出戻った私と、お金がない学生の身では、持ち家に住む選択肢しか無い。
結婚退職する予定だった私は、実家に逃げ込みしかないんだから。
あの日の、現実は、……侑哉が全て包んで抱きしめてくれたから、私も頑張らないと。
もう暫くは、結婚しようとか彼氏が欲しいとか思わない。
ってか、一生考えたくないかもしれない。
「どーしたの? 怖い顔してるよ、みなみ」
侑哉が不思議そうに覗きこむから、プイッと慌てて目線を逸らした。
もういいんだ。大切な弟が居ればそれで。
分かってくれる弟がいてくれたらそれで。