【完】神様のうそ、食べた。
助手席の前のダッシュボートの中から、煙草を何 食わぬ顔で取り出すと、ビニールをはがし始め る。

田浦ビーチに来たもののこんな時間じゃ開いてい るわけもなく。

駐車場に止めた車に背もたれ、ちょっと遠くに見 える海をぼんやり見つめる。

――本当に部長の目的が分からない。せめて連れ出 すのならもうちょい夜景が綺麗な場所とか行って くれてもいいのに。

「煙草、あるじゃないですか」 「当たり前だろ。俺が切らしたとこ見たことある か?」

ない。部長は仕事中はスーツに匂いが付くから吸 わなかったけど、ロッカーにはまとめ買いした煙 草の箱があったし、休憩のときはスーツを脱いで まで吸っていた気がする。

「あの、ここまで来たのってさっきの話の続きで すか? 真くんの」

「――ああ、そうそう。真は、母親が産みたくな かっただの若いだの色々問題があってさ、弁護士 つけてさっくり頂いちゃったんだよな」

そうあっけらかんと言うと、真っ暗な空に煙を吐 きだしていく。 煙が段々と消えていっても、私のもやもやは消え ていかない。

――つまり真君の本当の親ではないのだから。

「じゃあ、なんで部長をパパって呼ぶんです か?」
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