わすれなぐさ
もう一度まぶたを閉じれば、部屋に鳴り響く着信音。
そこには見慣れた名前。
相浦静也。
それは、隣にいたはずのその彼。
「もしもし…」
「"やっぱまだ行ってねーんだな"」
「今日はもう行かない」
「"駄目だよ。ちゃんと行け"」
「静也、お父さんみたい」
「"…そうかもな。"」
「…ちゃんと、行くから、じゃあね」
それだけ言って電話を切った。
私よりも何個も上の人だから、
私とは違って大人な人だから、
仕方ない、そう思ってもそれでも子供扱いされることが嫌で仕方なかった。
それでも彼から離れられないのは、
1人になるのが嫌なのと、
ほんの少し彼の温もりを知っているから。
そんなか細い糸に、私はずっと縋りついている。
彼は私のことなんて見ていないというのに。
それはとても滑稽な笑い話だった。
求めるモノ。
(本当に欲しかったのは愛です、なんて、そんなこと思う日が来るなんて思わなかった。)