四季。彼と生きた青春













彼の部屋で虫が出たことがあった。

あの夏になると出てくる黒い虫。

それがポトッて落ちてきたんだ。


『っぃやーーーーー!!!待って待ってゴキブリ!!ちょちょちょちょっ…!たたたたいらっ…って、え?』


窓のところにいたはずの彼が、音もなく部屋のドアを後ろ手に閉めて出て行こうとしているのが見えた。

…どういうこと?


『えっ!平良!えっ、待ってよ、ねぇ!!』


彼が閉鎖していった空間で無視されたことに気付いて、わたしも部屋を飛び出した。

階段を駆け下りて見えた玄関で、スニーカーを履きつま先をトントンとしている後姿を見付けた。

トントンじゃねぇ!


『ちょっと待てぇーーい!平良ねぇ…っ!』


わたしのなかにある力を総動員して、彼を振り返らせることに成功した。

のに。




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