天の川に浮かぶ島
目覚め
「―――シオリ」

 気がつけば、目の前に人の顔。

「詩織?」

 夏彦?

「あぁ、よかったぁ」

 力の入らない私の体を、夏彦はベットごと抱えるように抱きしめた。

「詩織、分かるか?しゃべれるか?」

「―――ツヒコ」

 なんて声。ほとんど空気しか出てない。それでも。

「よかった。分かるんだな」

 夏彦が私の両肩を掴んだまま、嬉しいのか悲しいのか分からない顔で笑った。

「ごめんな」

「―んで、あや、まるの?」

 夏彦は私から手を離し、立ち上がって部屋の窓辺へ寄りかかった。

 病院の一人部屋なのだろうか、本当に静かで開け放たれた窓からも、ほとんど音は聞こえない。

 ただ外の明るい日差しを受けて、真っ白な部屋が一段とまぶしく感じた。

「おまえ、演劇の最中、舞台から落ちたんだよ。」

 夏彦は窓の外を見ながら、こちらに背を向けて話し出した。

「演劇?」

「ああ。それで強く頭打って、しばらく意識が戻らなかったんだ」

『天の川の雫』。カササギと牛飼いの青年と機織の姫と天帝が出てくる物語。

 私の舞台。
 初めての主役。
 あの舞台のために今まで練習してきたのに。
 先人たちから見れば短い時間かもしれないけれど、小学生の頃から今までずっと抱いてきた夢が、やっと実現するはずだったのに。

 舞台はどうなったの?みんなは?
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