天の川に浮かぶ島
「詩織」

 夏彦はかすかに笑いながら振り向いた。

「いまはまだ何も考えないほうがいい。」

 ほんと、思考がまとまらなくて、なんだか気持ち悪い。

 おそらく、というか絶対大変なことになってたんだと思う。

 でも、まぁとりあえず、なっちゃったことはもうしょうがないし、夏彦がいてくれるんだし、ま、いっか。

 あれ、そういえば夏彦の服。

「それ、は?」

 私は夏彦の白衣を指差した。

「ああ、これ?俺、医者、というか博士になったんだ。やっと研究に成功してさ、長かったけど、論文を書き終える頃には、夢がかなえられそうだ。これ、すっげーことなんだぞ。まぁ、詩織には分からないと思うけど」

 自慢げに笑った顔と子供っぽい口調は昔のまま。

「先生」

 病室の扉が少し開き、外から声がした。

「ああ、いま行く。詩織、いきなり動いたりするなよ」

 夏彦が上体を起こそうとしていた私の体を押さえて元に戻す。

「すぐ戻ってくるから」

 夏彦が去った後、窓から差し込んでいる明るい日差しに、私は布団をはいで自分の体を見回した。

 白とピンクのパジャマから覗く白い腕や胸元、首、両足。見えない部分は触ってその感触を確かめる。

 わたし―――
「―――どの、くらい、寝て、たんだろう」

 私は深く息を吐き出して、傷痕一つない体を、再びベットの上に投げ出した。
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