天の川に浮かぶ島
優しい時間
「今日は少し外を歩いて見よう」

 そう夏彦に誘われて、ゆっくり、ぎこちない足取りで病院の外に出たのは、目が覚めてから三日後の七月三日だった。

 よく晴れた日で、病院の前に広がった田舎の一本道の土は、からからに乾いていた。

 強い風が吹き、白い雲が流れ、梅雨が終わり、ここは夏になろうとしていた。

「なにも、ないね」

 あるのは背の高いトウモロコシ畑と、夏で勢いを増し鬱蒼と茂った林。

「このさきに高台があるんだ。もう少し体が慣れたら行ってみよう」

 その誘いに私は、うん、と元気にうなずいて見せた。

「詩織?」

「なぁに?」

「目が覚めて、うれしいか?」

 夏彦は遠くの高台があるという方角を見たままつぶやいた。

 陽光に透き通った瞳が、やけに透明で輝いて見える。

 いつも見ていた目のはずだけれど、私が眠っているうちに想像できないほど苦しんだに違いない。その瞳の周りがずいぶんと年をとったように感じる。

「嬉しいに、決まってるでしょ。何言ってるの、だれも眠ったままがいい分けないじゃない。」

 私の言葉に、夏彦はこちらを向いて目を細めた。

「よかった」

 とてつもなく懐かしく感じる微笑。
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