天の川に浮かぶ島
「俺が詩織を治したんだから」

 声に含まれた違和感を察して、じっと見る私に気づいてか、夏彦は一歩前を行き始めた。

「ねぇ、夏彦。論文は進んでるの?」

 私は慌ててその背中に声を投げる。

「―――まあな、もうほとんど終わった。でも、論文は送らないかもな」

 白衣のポケットに手を入れたまま、振り返らずに夏彦は答えた。

「え?送らないの?」

 ちょっと急いで夏彦の隣につく。

「どうして?」

「――もう、時間もないし、それに俺はこれで満足だから」

「夢に近づいただけで満足なんて夏彦らしくないよ。いつもの勢いはどこ行ったの?」

 そう問いかけながら振り仰いだ夏彦の横顔に、かげりが見えた。

「締め切り近いの?」

「あと、四日しかない」

「なんだ、四日もあるんじゃない。夏彦、論文得意でしょ?いつもさっさと終わらせて、私の手伝ってくれてたし。大丈夫、夏彦なら書き上げられるよっ」

 夏彦は重い病院の扉を開けた。

「なら詩織も、あと四日で高台まで行けるように頑張れ」

「わかったぁ」

 私たちは小さな施設のような病院の扉を潜り、背後でしっかりと扉が閉まった。

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