天の川に浮かぶ島
告白
 人がいる。

 カーテンのない窓の前で、立ったまま机に手をつき、少し丸めた背中をこちらに向けている。

 明かりは机の上においてあるスタンドだけで、部屋全体をみることはできない。

 あれ?論文かいてないじゃない。

「―――っっ!」

 夏彦が突然言葉にならない声を出してうずくまった。

「夏彦!」

 私は扉から飛び出して、こわばった夏彦の背中に駆け寄った。

「どうしたの?苦しいの?」

 私の声に、夏彦は、はっとして両手で頭を覆い、私から隠れるように慌てて立ち上がると、よたよたと壁に近づき、もたれかかった。

「―――詩織、どうして、ここに」

「そんなこと今はどうでもいいわ、誰か呼んでくる!」

 駆け出そうとした私を、夏彦の鋭い声が止めた。

「やめろ!呼んでも無駄だ」

「無駄って、どういうことよ」

 歩み寄ろうとする私に、夏彦は続けて言葉を放つ。

「それ以上こないでくれ。頼むから、俺を―――」

 左手で顔を覆い、私を制するように開いた右手を伸ばす。

「―――俺を、見ないでくれ」

「夏彦?」

 スタンドライトの明かりが、手で影を作った夏彦の顔をところどころ映し出した。

 きざまれた幾重もの皺と、弾力のなくなった皮膚。

 落ち窪んだ瞳に、色のなくなった眉。

「な、つひこ」
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