天の川に浮かぶ島
 私はおびえきった男に、ゆっくりと近づき、そっと抱きしめた。

 どんなに変わっていても、この人が夏彦であることは分かる。

「夏彦、大丈夫。私なら大丈夫だから、全部話して」

 薄々気づいていた。

 目覚めたあの日に、この病院の様子が可笑しいことも、私の体も、夏彦の雰囲気も。すべてに違和感があった。

 病院といったって看護師がいるわけでもないし、私以外の患者を見たこともない。いるのは夏彦の仲間のような人が数人で、私が話しかけようとするとどこかへ行ってしまう。

 それに、怪我から目覚めたというのに家族は一度も姿を見せないし、私の体には手術のあとが一つもない。

「夏彦、私どうしちゃったの?ここはどこなの?」

 体を離して夏彦の顔を見ようとするが、今度は夏彦の腕がそれをさせない。

「―――冗談か何かだと思うだろうな」

 話し出そうとする夏彦の呼吸が耳元で荒くなっていく。

 こんなにも真実が聞きたいのに、聞くのが怖いと感じてしまう。

「詩織、お前は―――」

 聞きたくない。怖い、そう思って目をつむった。

「―――お前は舞台から落ちて意識を失ってから、一五〇〇年間眠っていたんだ。」

 誰にも聞かれないように、この耳の中にだけ真実を洩らした夏彦の声は、小さく、震えていた。

 荒い呼吸のまま、言葉は続く。

「お前の両親や兄弟は、もうとっくにこの世にはいない。俺は、ただもう一度、怪我をする前の詩織に会いたくて、詩織との約束を果たしたくて」
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