ヒマワリ君の甘い嘘
長い睫毛。
潤んだ瞳。
俺を侵食して行く。
「……今日、コンタクトしてるんだね」
俺の顔を見て小夏はいった。
…、そういえば
「あー、昨日外すの忘れてた」
「ダメだよ、ちゃんとしないと!カラコン目に悪いって聞くし…」
凄い勢いでそう言ってくれた彼女を見て、俺は吹き出す。
「ん、外すからそんな怖い顔して言うな」
「……日向くんって、なんで一人暮らしなの?」
その質問に、少しの間黙り込んだ俺を見て、小夏はバツが悪そうな顔をする。
そういや言ってなかったっけ…
あの事を言ってしまっていいのか、少し悩んだ。
小夏はきっと心配するに決まってる。
けれど、黙って隠しているのもダメだ。
むしろそっちの方が小夏を悲しませることになる。
まあ、あのことは今ではすっかり話は終わっているし、
言ったってどうってことない。
そう、割り切って話さなくては
多分一生話すことなんてできないだろう。
小夏はソレを知ってしまっていいのか。
無駄な負担になったりしてしまったらどうしよう。
そんなことより、あの事を知って
小夏に嫌われたらどうしよう。
いつだって俺は、お前にどう思われてるかばっかり考えて、行動してるんだ。
こうやって、俺の頭の中ぐちゃぐちゃにして、心臓の音がうるさいのは
全部君のせい。
「中学の時、母親のこと殴ったんだ、俺」
“母親殴った子供となんて一緒に暮らせるわけないだろ?”
俺はそう付け加えて小さく笑う。
怖がられてしまうのだろうか。
失望されてしまうのだろうか。
すんなり口に出したくせに、その後の言葉を聞くのを『怖い』と思ってしまう俺は、自分勝手だ。
小夏は何も喋らない。
ただずっと俺の洋服を握りしめている。
「…………どうして殴ったのか、聞いてもいい?」
優しい声でそう言った。
「……コレ」
そう言って俺は自分の瞳を指差した。
黒色の影を纏っている、その瞳を。
「母さんに、この目のこと色々言われて…」
中学生の俺にとって、一番触れて欲しくなかった部分を、一番大切な人に
“どうしてそんな色をしているの”なんて言われてしまった。
「母さんは違うって思ってたから尚更、頭にきたんだろうな。俺」