ヒマワリ君の甘い嘘
だって、こんな寒い中
手が赤くなるほど冷えるまで、
こうしてあたしを待っていてくれた。
この手がこれ以上冷えてしまわないように、
あたしは手を繋いだ。
高崎は驚いたような顔をする。
あたしがこういう事するの、嫌だって思ってるからだろう。
「……いいの?」
少しだけ照れたように、彼は言う。
「いいの、あたしのせいだし。…それに今人居ないから」
通学通勤ラッシュまで、あと少し時間がある。
誰もいない道を、ふたり手を繋いで歩く。
「待っててよかった」
“やったね〜”と、高崎は嬉しそうに笑う。
「何言ってんの、風邪引いたらどうすんのよ」
「馬鹿は引かないから大丈夫ー」
今日は、
いつもとは違う朝だ。
なんだろう、
ふわふわする。
学校に着くと、クラスには人一人いなくて、居るのはあたしと高崎だけ。
綺麗に消された黒板。
ガタガタに並んでいる机。
その机の上にあたしと高崎のカバンが、ポツンと置かれた。
「まだ誰も来てないじゃん」
「あたりまえでしょ。まだ7時半なんだし」
“みんな寝てるって”
あたしはそう言いながら机の中を整頓する。
早朝の学校は静かで、不思議な感じ。
ふたりっきりというドキドキするシチュエーションなはずなのに、学校内が静かすぎて、なんだか寂しく思えた。
高崎は“課題やった〜?”などと、話題を振ってくれている。
あたしはそれに相槌を打ちながら、静かに椅子に座った。
「・・・・」
気まずい。
話すネタも尽きてしまった。
あたしから話しかけたほうがいいのだろうか。
「華ちゃんこの問題わかる?」
心の中で葛藤していると、高崎が教科書を持ちながら歩いてきた。
ためらいもなく前の席に座る彼に、あたしは拍子抜けする。
「わ、かる……けど」
「教えてー」
小さく頷き、高崎と向かい合わせになった私は、その問題を眺める。
急に緊張してきた。
心臓がドキドキうるさい。
さっきまではなんともなかったのに。
「………計算ミスしてるだけよ、これ」
「えっ、ウソ!?」
高崎の身体がさらにあたしの方へと近づく。
近い。
こんなこと、どうってことないはずなのに、
二人の視線が、
「!」
ぶつかった。
この距離なら、
手を伸ばせば彼にすぐ届く。
簡単に届いてしまう。