ヒマワリ君の甘い嘘
教室に戻ると、そこはもう
ふたりっきりの空間ではなくなっていて
あたしの姿を見た途端、小夏が嬉しそうに駆け寄ってきた。
高崎は、あたしの前の席じゃなく、元の自分の席に戻っている。
いつも通りのあたしたちに戻通り。
今更になって、自販機で何も買ってないことに気がつき、
小夏への挨拶の声が上ずってしまった。
小夏は不思議そうな顔をしていたけれど、何も言わなかった。
***
放課後。
いつもなら、高崎が“一緒に帰ろう”と、言いに来てくれるはずなのに、
今日は来ない。
それだけで、なんだか嫌な予感がした。
カバンを持ったまま廊下を覗くと、隣のクラスの入り口に彼の姿が見えた。
委員か何かかな?
話相手の女の子は何か紙を持っている。
あれ、なんだろう。
なんか変な感じ。
身体が重くなった気がする。
隣のクラスの女の子が、高崎に書類を近づけると、彼も同じように彼女に近づいた。
まるで、今日の朝のあたしたちみたいに、
きっと、あたしたちも周りからみたらあんな感じだったのかな。
周りから見た方が、自分が思っているよりも近い。
ドロドロと、黒いものが喉の奥から這い出てくる。
嫌だ。
見ていたくない。
早くここから立ち去りたい。
そう思うのに、
あたしの目は、彼らが離れるまでそれを捉えて離さなかった。
デジャヴ。
前にもこんな事あったな。
教室の中へ戻っても、そこにはいたくなくて
教室を出ようとドアへと向かった。
早く一人になりたい。
「あ、華ちゃん。一緒に帰ろ〜」
「ごめん、先帰る」
ドアのところで、高崎に鉢合わせてしまった。
高崎に一言断って、横を通り過ぎる。
「え、?なんか用事?」
後ろから聞こえるその質問に、あたしは答えなかった。
だけど、それ以上あたしを追ってくる気配は無くて、
あたしの手を掴むこともなくて、
尚更、早く一人になりたくなった。