ヒマワリ君の甘い嘘




教室に戻ると、そこはもう

ふたりっきりの空間ではなくなっていて


あたしの姿を見た途端、小夏が嬉しそうに駆け寄ってきた。




高崎は、あたしの前の席じゃなく、元の自分の席に戻っている。




いつも通りのあたしたちに戻通り。






今更になって、自販機で何も買ってないことに気がつき、
小夏への挨拶の声が上ずってしまった。




小夏は不思議そうな顔をしていたけれど、何も言わなかった。







***




放課後。




いつもなら、高崎が“一緒に帰ろう”と、言いに来てくれるはずなのに、


今日は来ない。




それだけで、なんだか嫌な予感がした。




カバンを持ったまま廊下を覗くと、隣のクラスの入り口に彼の姿が見えた。



委員か何かかな?



話相手の女の子は何か紙を持っている。



あれ、なんだろう。



なんか変な感じ。





身体が重くなった気がする。





隣のクラスの女の子が、高崎に書類を近づけると、彼も同じように彼女に近づいた。



まるで、今日の朝のあたしたちみたいに、




きっと、あたしたちも周りからみたらあんな感じだったのかな。




周りから見た方が、自分が思っているよりも近い。



ドロドロと、黒いものが喉の奥から這い出てくる。


嫌だ。




見ていたくない。




早くここから立ち去りたい。




そう思うのに、

あたしの目は、彼らが離れるまでそれを捉えて離さなかった。



デジャヴ。



前にもこんな事あったな。





教室の中へ戻っても、そこにはいたくなくて
教室を出ようとドアへと向かった。


早く一人になりたい。




「あ、華ちゃん。一緒に帰ろ〜」



「ごめん、先帰る」



ドアのところで、高崎に鉢合わせてしまった。



高崎に一言断って、横を通り過ぎる。



「え、?なんか用事?」



後ろから聞こえるその質問に、あたしは答えなかった。




だけど、それ以上あたしを追ってくる気配は無くて、



あたしの手を掴むこともなくて、



尚更、早く一人になりたくなった。






< 196 / 201 >

この作品をシェア

pagetop