ヒマワリ君の甘い嘘
*
気がついた俺は何故か立ち上がっていて。
自分のしたことを理解するまでに、少し時間がかかった。
鈍く痛む右手と、
俺のすぐ下に横たわる母。
聞こえるのは、母さんのすすり泣く声と呻き声。
フラフラと後ずさり、俺はそのまま家を飛び出した。
家を出て、呼吸が止まりそうになるほど、走って走って走って。
気がついた頃には外は暗く、静かになっていた。
名前も分からない小さな公園に入って、ベンチに腰掛ける。
俺は、いちばんしてはいけないことをしてしまった。
だって、
あんなこと言われるなんて思っても居なくて。
汗が染み込んだ制服のシャツが、体に張り付いて気持ちが悪い。
まだ残っているあの感触。
右手が痛い。
どうしようもないじゃないか。
いちばん安心を求めていた人にまであんなことを言われて、
俺は誰にすがればいいんだよ。
「(違う……………………)」
そんなこと、どうだっていい。
俺は…
母さんを殴ったんだ。
この手で。
この目を最初に綺麗だと言ってくれたのは、母さんだったのに____
「う…………あぁぁぁぁぁっ」
涙が溢れて止まらない。
この汚い右手を今すぐ切り落としたい。
こんな自分、誰かに殴られて死んでしまえばいい。
こんな目、潰れてしまえばいい。
「うぁあぁあ……!」
痛くなるほど、手を握りしめて、俺はずっと泣いた。
ずっとずっと____
夜の三時頃、やっと俺は家に向かって歩き出した。
涙で汚れてぐしゃぐしゃの顔のまま。
帰り道はいつも以上に静かに感じた。
もしかして、世界に自分一人なのかもしれないという錯覚を起こした。
その方が良かったのかもしれない。
家に着くと、父さんが何も言わずに家へ入れてくれた。
母さんはそこには居なくて、俺は促されるまま自分の部屋へ行った俺は、そのままベットに倒れこんだ。