哀しみの瞳
沙矢がピアノ教室の前で待っていた。「理恵、今日また一緒に帰ろう!どう?いい?」「いいに決まってるぅ。けどあたしの方が遅くなるけど」今理恵の方が難しい曲を習っていて時間が かかっていたが沙矢はずっと待っていてくれた。「その後剛とは、どう?整理できた?」「沙矢にも迷惑掛けてごめんね、何とか自分でハッキリ言えたんだよ」「ええっ、理恵が、理恵が一人で言えたの?自分で?」「だって、秀に言われたもん。自分で考えて自分で思った事はしっかりと相手に伝えないといけないって」「だからぁ、剛にキッパリと断ることができたんだぁ」「そうだよ」「ふーん、でっ、もう一つの核心の気持ちは伝えたのかなぁ?」「ええっ、何の事?」「理恵さぁ!分かってないよね、自分の気持ち、あたしからしたらもう見え見えだけど、もうっ…」(理恵)「…」「あーん、もうっ、理恵は秀さんの事どう思ってんの?」「どうって、従兄弟…お兄ちゃん」「そうじゃなくて!」(理恵)「…」「二人は、血のつながりはないんだよねぇ?」(理恵)少し嫌な顔になる。「理恵はどこから見ても、秀さん、命!ですからぁ」(理恵)顔色がみるみるうちに蒼白になっていく。「理恵!理恵、ちょ、ちよっと、何?あたし、言い過ぎた?あれれっ…」理恵は一人で家に帰ってしまった。 理恵には今何も映らなかった。何も聞こえなかった。頭の中をさっき沙矢に言われた言葉が何度も何度も巡ってきている。私はどこから見ても秀が命? 沙矢はその足で以前教わっておいた武の自宅へ向かった。行かずにはおれない状態であった。沙矢の優しい性格がそうさせたのだろう。沙矢の思いが通じたのか、偶然武が家にいた。「どうしたの?沙矢ちゃん、何か様子おかしいけど」「どうしても聞きたいことあって、いいですか?」「理恵ちゃん、どうかした?」「はいっ、その通りです!私、あのぅ」「まぁ、とにかく落ち着いて、はいっ、座って」沙矢、大きく深呼吸して…「でっ、何があったのかな?」「さっき、理恵に、言ってしまったんです」「何をかな?」「理恵は理恵は、どこから見ても秀さん、命だからって」
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