哀しみの瞳
ある日の夕方。
その日は、甚一が、しゃかい福祉協議会の会合に出掛けていて居なかった。美佐子さんと美紀さんと3人だけの、夕食の時…


(美紀)
「私達3人の食事って、珍しいわね?母さん!」


(美佐子)
「そうねっ、でも、この3人というのも、満更悪くはないわね!美紀ちゃん?」
何か含みのある言い方。……



(美紀)
「ねぇねぇ!秀さん!秀さんって、今まで、挫折っていうか、そんな経験あるのかしら?だって、弁護士には、現役でなれたでしょう?勿論、その前の大学、高校だって、順調だったわよねぇ?……どうなの?すっごい興味あるんだけど!」



(秀)
「んんっ、別に、順調って……あの頃は、目的がきちんとあったから。……その為に、そのことの為だけに、生きてたから、傍から見れば、それが順調ってことなのかな?」




(美紀)
「やっぱり……それって。そのぅ、愛する人の為?」


(秀)
「……そういう事です」



(美紀)
「自信あったんだろうな!秀さんっ、その時…きっと」


秀の顔色が変わり…美佐子が、美紀を止める。



(美佐子)
「またぁ、美紀ちゃん!もうっ、やめときなさい!根掘り葉掘り!貴女はいつでもそうなんだから」



(美紀)
「だって、私、不思議で仕方ないもの!秀さんは、完璧なのよ!どうしてここまで、間違なく、生きてきてるのに、……そのぅ、その愛する人と、幸せになれなかったの?私にはどうしても、分かんないわ!おかしいよ。ねっ、お母さんも、そう思うでしょ?」



(美佐子)
「私には、ここまで、優秀な子供さんを、持ってないから!御両親の気持ち、分からないけど…(美紀をジロリと見る)
ただ、御両親も、回りの方も、秀さんの事、今以上に幸せにしなくては。それ以上に幸せにならないと。って、思ってしまったんじゃないのかなぁ。秀さんがあまりに良い子だから。そして、その期待が、どんどん膨らんでいったのよ。現実の秀さんを、まるで見ずに。きっと親として、自信があり過ぎたのね!私なんて、まるで無いわ!美紀ちゃん…貴女を見てたらね?ふっふっふっ!」



< 140 / 296 >

この作品をシェア

pagetop