哀しみの瞳
病室で待機していると、集中治療室の看護婦から、呼び出しが来た。


中へ入るようにと、白衣を着せられた。白帽をめぶかに被り手袋をはめ、消毒をし、中に入った。


目が見えないはずの理恵が、



「秀っ、(力無くやっと声を出す)」秀の方へ手を差し出す。



「理恵?どうした?」



「秀っ、どうしても、言っておきたくて!秀?理恵は、秀一を産む事が出来て…秀一を育てる事が出来て…んんっ………秀と巡り逢えて………理恵は……とっても…………しあわせだったよ!…秀は?」



理恵の耳元でそっと

「………俺も、理恵と巡り逢えて、理恵と愛しあえて……そして、秀一を産んでくれて………しあわせに決まってるよ!」
秀の精一杯の気持ちだった。




「んんん……ありがと……秀…………………」





理恵は、痛みなどで、顔を歪めることなく、安らかに、眠るかのように………逝った……


理恵?理恵は本当に幸せだったの?


だって、最後のあの、哀しげな、瞳の奥で何を想っていたの?



俺は、これから本当に君の居ない暗闇の世界を、どうやって、生きていけばいい?



理恵!!!………
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