哀しみの瞳
………とうとうアパートの前に着いてしまった。



突然由理が訪ねて来たことに秀一は、さぞ驚くだろう。



思いきってドアを叩く……

中から秀一の声が聞え、ドアが開かれる。



(秀一)
「あれぇ!……どうした?由理!」


黙って何も答えることが出来ない。

目から一人でに涙がこぼれ落ちる。


(秀一)
「こんな時間に、一人でまた来るなんて……何があったんだ?とにかく中に入って!」



部屋の中に入っても、ただ、涙を流し続ける由理……


秀一は、思わず由理の肩を抱き寄せて、優しく聞いてみた。



(秀一)
「由理?どうした?……何があったんだ?言ってくれないと、分からないじゃないか?
んんっ?」



(由理)
「私は…しゅうの妹じゃない!………」



(秀一)
「ええっ、なんだって?何でそんなことを………」



(由理)
「高校に提出する戸籍謄本っていう書類の中を見てしまったの………そしたら……」



また、一段と大きな声で泣き出した。



秀一は、由理の肩を優しく撫でてやりながら…



(秀一)
「………そうだったのか!……」



(由理)
「しゅう!しゅうは、そのこと、知ってたの?私が…血の繋がった妹じゃないってことを…」



(秀一)
「………」考え込んでしまう。



(由理)
「私は、誰の子供?どうして、父さんの娘として、育ったの?
ねぇ!しゅう!本当のこと教えて?でないと、由理は、この先……」



不意に自宅のことが心配になった秀一は、


「待って!由理!家を黙って出て来ただろう!今頃みんな心配してるぞ!家に電話するから!……」


秀一は、家にすぐ電話を掛けた。



案の定……てんてこ舞いになっていた。
< 213 / 296 >

この作品をシェア

pagetop