哀しみの瞳

高橋は、意を決して、吉川宅へ向かっていた。



吉川は、仕事より、戻って来ていた。


（高橋）
「……どうも、突然伺いまして……その節は、由理の引越しに協力いただきまして……長い間、ご無沙汰しておりました」



（秀）
「いやぁ！あれから、早いもので、かれこれ四年も経つんですね！由理は？元気でいますか？……」ただならぬ様子であることは、秀にも分かっていた。



（高橋）
「………実は…そのっ、由理が……」


（秀）
「由理が………どうかしたんですか？」



高橋は、由理がホテルのレストランで夕食の際に倒れそのあとの容体を詳しく話した。それまでの暮らし振りも、なるべく秀に分かるように話して聴かせた。



（秀）
「身体的には、問題は無いのですね？」



（高橋）
「体の方は、全く健康そのものなんですが……声が出ないのではなくて……本人の意思がきっとそうさせているのではないか？と、かうんせらーの先生が言っておられました。何か余程のストレスを溜めていたとか、余程のショックがきっかけとなって言葉を無くしてしまったのでは？と……
私達には…とにかく判らないのです！思い当たることなど無くて……私達三人は、本当に上手くいってたんです。あの娘は、とても素直で文句の付けようのない良い娘です。吉川さんが余程、良い育て方をなさったお陰と思っております。私は………今は…こうなったら、吉川さんに、相談するしか、手立ては無いと……」


（秀）
「とにかく…私は、由理に会いに行ってやりますから…直ぐに支度しますから、行きましょう！」


（高橋）
「そう言っていただけで……なんとしてでも、由理が元通りになって欲しいのです！あの娘に…しあわせになってもらいたいのですよ！ただ、それだけなんです……」そう言って絶句する。