哀しみの瞳
(秀)
「トントン!……由理っ!入るぞ!!」


返事をする訳もなく……窓の外を眺めている由理が、そこに居た。



(秀)
「由理!!……由理っ…父さんだ!……父さん、由理に…会いに来たよ!」


由理の体が硬直するのが、分かった。


(秀)
「由理?今まで、由理のこと…放っておいて、父さん一度も会いに来なくて……すまなかった!!寂しかっただろう?」


由理が、ゆっくりと秀の方に振り向いた。



その、なんとも言えぬ、哀しい瞳からは、大粒の涙がこぼれ落ちていた。



そして、秀の胸の中に由理は、飛び込んで来た。



秀は、強く抱き留めてやる。



「由理?……父さんに…父さんに何でもいいから、話してごらん!………大丈夫だから……もうっ、安心して!………」



暫く由理は、声をださずに、泣いていた。



由理は、何か話そうとする素振りを見せるが、苦しそうにするばかりで、声が出ない様子だった。



「由理?……ゆっくりで良いんだよ!今日は、いいから休みなさい!父さん、明日も来るから……安心して!分かった??」


頷いた由理を見て、秀は、病室を出た。
< 256 / 296 >

この作品をシェア

pagetop