哀しみの瞳


病院に着くまでの間、秀一はずっと秀の手を握っていた。



由理は、俯いて泣いてばかりいた。


「由理!!しっかりするんだ!父さんは、まだ生きているんだから!…(そう由理に言い聞かせながら)父さん……父さん……どうか…目を覚ましてください!」


祈るようにして、何度も手を握り直している。



ふとっ、由理は思っていた。秀一が、「父さん…」って、何度も声を掛けているのを初めて聞いたな、と…


由理は、今の今まで秀一が、父親のことを「父さん」と呼ぶのを聞いたことが無かった。


そうしているうちに、病院に着き、慌ただしく秀は、集中治療室へと、運ばれて行った。
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