哀しみの瞳

「ああっ、自己紹介…遅れてごめんなさい！私、法学部２年、中野 礼子っていうの。一応吉川君とは、同級生。一緒に勉強する事もあるのよ。でもこの時間は、自由だから、何処でどうしているかまでは、分からないのよ。さぁ、とにかく、行きましょう！」



何とか礼子のお陰で、アパートに着くことができた。

とても簡素な2階建てのアパートだった。もちろん、鍵が掛かっている為に、中に入る事は出来ない。アパートがちょうど見える所に小さな公園があり、そこで待つ事にした。


礼子は、それは、根掘り葉掘り色んなことを聞いてきた。理恵は圧倒されていた。

礼子は何度か時計をチラチラ見ていた。

あたりはめっきり暗くなり、理恵の心細さが頂点に達してきた。礼子とも会話が出来なくなってきた頃。


「家に帰らないといけないわよね？電車の時間とかもあるしぃ！今日は諦めて、帰った方がいいんじゃない？」


「……」会いたい気持ちと会えない現実との狭間で理恵の眼からは涙がこぼれ落ちてきた。


「あらっっ、泣いてるのぉ？会えないから？従兄弟に会えなかったからって、泣けるかしら？」


「……」


「はいはい、お子様は、お姉さんが、駅まで送ってあげますから、今日は、諦めて、お利口に帰るのよ？分かった？」


（礼子は、秀が大学を出る時間を分かっていた。絶対会わせないつもりでいた）

（理恵は思っていた。何故この人ど会ったのだろう。）この時の理恵にはまだまだ先に起きる出来事を知るよしもなかった。