哀しみの瞳
母さんとの、約束で、今夜の夜行で熊本へ、発つことになっていた。すべての準備が整った。切符も渡されていた。何処へ行くかまでは、理恵は決めていなかった。とにかく家を出る事しか頭になかった。

母さんが、パート先から早々に戻ってきた。


「理恵!!どうだったの?」



「うーんっ、受かってた!」


「えええっ!…」

「一応、書類貰って来たけど……捨てておいて!」


「理恵…」



母さん、私、幾つか寄る所あるから、電車の時間まだまだあるけど、行くね!部屋の荷物は、慌てないでいいから、差し当たりの着替えちゃんと持ったから!本当いつでもいいからね!」


「理恵!何もそんなに、慌てなくても…お父さん帰ってからでも、間に合うのに…」


「あっ、お父さんに、よろしく伝えておいて?有難うって!」



「理恵、それより、貴女、身体の具合どうなの?本当、何か食べた?」


「んんっ、大丈夫だから、心配しないで!母さん。母さんも身体に気を付けてね?
有難うねっ!」




(あの子。有難うだなんて……)



理恵は、それだけ言うのが精一杯だった。
< 74 / 296 >

この作品をシェア

pagetop