哀しみの瞳
「理恵、もう大丈夫だから、二人共いなくなったよ」「理恵ね…理恵ね」「うーんっ、ゆっくりでいいから、泣かずに言うんだ」「剛がね、また剛がぁ…」「はあっー!」久し振りに聞くその名前に僕はまたあの日の事を一度に思いだした。あの剛が今度は何を!「その剛がどうしたんだ?理恵?」「剛が理恵の帰りを廊下で待ってて、話があるって、それで、運動場で話したんだ」「そいつが何て?」「お前は将来の夢はあるのか?って」「理恵はどう言ったの?」「保母さんになりたいって、そしたら剛が、じゃぁ、どこの高校行くんだ?って、理恵は〇〇高校へ行こうと思っているって」「そうなんだ。理恵は保母さんになりたかったんだ。僕も知らなかったよ。それで?」「じゃぁ俺は、その隣りにある〇〇高校へ行くよって!」「それって、どういう意味だ?」「剛、私の事好きなんだって、好きだからお前の近くにいて、お前を見守ってやるって、昔いじめたのも理恵のこと好きだったからだって、そんなこと、そんなことって…」理恵の大きな目からひとすじの涙が流れた。僕は一瞬何て答えてやればいいのか…言葉を失った。あいつが理恵のことを好きだって?「理恵はどう答えたの?」「理恵はあの時の事覚えているもの、理恵は剛の事は大嫌いだもの、恐いもの、そんな事急に言われても、どう言っていいかなんて、分かんないよ」「理恵、理恵はもう、中学2年生なんだ。自分で考えて自分で思った事はしっかりと相手に伝えないといけないよ。そいつはきっと、理恵に思い切って告白したんだろうと思う。正直に理恵に伝えたんだ、自分の気持ちを」僕は…僕はどうなんだ?「秀はどう思う?理恵は嫌いな人にそばにいて欲しくない。理恵は…理恵は…」その大きな瞳一杯からはダイヤモンドのような涙が流れ落ちるのが見えた。僕は理恵を抱き締めずにはいれなかった。心の中で何度も呟いた。理恵の事は僕が守ってやるよ!僕は10才の時からそう決めていたんだ。ずっとずっと守るって。どうしても言葉にすることができなかった。理恵が僕から離れようとした。「理恵?」「秀の言う通りだよね。自分でどう答えれば剛が分かってくれるか、考えてみる」