哀しみの瞳
どうやって、武との待ち合わせの場所である、資料館に着けたのか、覚えていない秀だった。



(武)
「秀っ!!」


秀は武の前にかがみ込む。


(秀)
「武っ、武っ、俺は…どうしたら。どうすればいいんだ。理恵はいったい、何処へ行ってしまったんだ?武っ、教えてくれ!」


武は、今まで秀のこんな姿を見た事が無かった。



(武)
「秀っ?お前は、今まで、何も気付かなかったのか?」


(秀)
「……理恵が、一度受験の前に俺のアパートに突然来た事があったんだ。あの時……」秀はあの日の事を思い出していた。確かにあの時の理恵の様子は、おかしかった。泣いてばかりで…あの時理恵は、俺に何かを言いたかったのかもしれない。おばさんから、熊本の事を聞かされた、正にその後だったということになる。


秀の目からは、ひとりでに涙があふれて来る。肩を震わして泣いた。


何故?理恵は、俺に何も告げずに、行ってしまったんだ?熊本の事も。自分が立たされている辛い状況も、何もかも!
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