ホシテントウ
 朝だった。

 バイトに向かう途中、畑の間の道を肥料の匂いに顔をしかめながら歩いていると、左の枯れかけた草むらで、カシャカシャ音がした。

 風のない日に不自然な音。草むらはじっとして、長く伸びて垂れた葉先さえも動かしていない。

 猫が死にかけてると思った。

 猫は死んだ姿を誰にも見せずに死ぬらしいから、一瞬でも目を向けてしまっては悪いと思った。

 でも気になって、見た。

 猫じゃない。

 一本の草の細い葉の部分に、黒い粒がついている。

 あぜ道に沿った足の向きを変えて、草むらの前でしゃがみこんでよく見てみた。

 ビックリした。

 黒い粒は天道虫だった。

 おまけに真っ黒な背中についた模様は、枯草色の星型が四つ。

 欲しくなった。

 私はティッシュを何枚か出して、天道虫をそっとそれで包み込んだ。

 虫かごが欲しかったがバイトの時間に遅れてしまうので、仕方なく本屋に向かう。

 バイトが始まっても本の整理をしていても、レジを打っていても、天道虫が気になってしょうがない。

 昼休憩になると私は、同じバイトの子に自転車を借りて、近くのスーパーに虫かごを買いに行った。

 ちょっと大きめの籠しかなかったがとりあえず我慢する。

 本屋に帰ると早速かばんからティッシュに包まれた天道虫をそっと取り出し、両手で包みながら籠へ移した。

 自転車のお礼を言ったとき、わたしの天道虫のことを、彼女はまったく気づいてないようだった。

< 2 / 6 >

この作品をシェア

pagetop