霧雨シェアハウス
一階全体はシェアスペースで、2階の女性用と3階の男性用が部屋になっている。1フロアにつき部屋は6部屋。2階と3階各一部屋ずつ、計2部屋空いていて住人はマコさん含めて11人。マコさんの部屋はシェアスペースの横にある管理人室で、慎之介くんもそこで寝泊まりしている。


部屋に入ると、ベッドに飛び込んだ。今日も一日疲れた…化粧も落とさずにセミダブルのベッドでゴロゴロと転がる。


シェアハウス内では、私は素っぴんでいる。高校まで一度も化粧したことがなくて、化粧道具を一式揃えてくれたのも、化粧の仕方を教えてくれたのも、全部この部屋の前の住人の親戚だった。


このベッドを含めて、私の部屋のいくつかも親戚が残してくれたものだ。入居してすぐだからか、その残り香が微かに感じられる。


…麻衣ちゃん。私の3つ上で母方の従姉妹。卒業して就職するからここを出て、今はスイスにいるらしい。


優しくて、頼り甲斐があって、美人で頭も良くて…わたしは4年制だけど、麻衣ちゃんはここの短大生だった。1年浪人するほど行きたかった学校だったって…麻衣ちゃん言ってたなぁ。


化粧を落として下に降りると、シェアスペースのテレビで慎之介くんがアニメをみていた。


「やっほー、慎之介くん」


小さな背中に声をかけると、ピクリと肩を震わせて首をこちらへ回す。マコさんの親戚なだけあって、きゅっと結ばれた薄い唇はマコさんとよく似ている。


その唇がぐっと上に吊り上ると、


「エリちゃん、おかえり」


セリフはシンプルながらも声のトーンはご機嫌。宿題も早々と片付けて見たいテレビが見られたからだろう。


  
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