好きで悪いか!


“いきなり好きだと言われても、実感が湧かない”

 先輩の言葉を思い出して、はっとした。さっき、同じことを雅紀に言った気がする。

“突然そんなこと言われても、実感が湧かないっていうか”

 だけど時間が経つと、きっと実感が湧いてくるはずだ。実感して、ああどうしようと思って、悩んで結論を出す。
 その過程を踏む気もしないと、キッパリ言い切った先輩。潔くて、素敵だと思ってしまうあたり、どうやら相当重症らしい。
 先輩を諦めきれない病。いまだ進行中。



 友永綾仁先輩の存在を知ったのは、春の生徒総会だった。

 それは前年度の生徒会活動の報告と今年度の役員紹介、春の総体に出場する運動部のための決起集会を兼ねたもので、そう聞いても「何それ、だるいなあ~」としか思えなかったのだけれど。

 新生徒会長として、壇上に立った友永先輩が喋り出した途端、見入ってしまった。

 きびきびして堂々とした発声。張りのある、凜とした声。
 日本語の見本のような正しいイントネーション。まるでスピーチのプロのような、聴きやすさだった。

 そして百八十センチはあろう、すらりとした背丈に、長い手足。小さい頭。
 優等生の見本のような、きっちりと着こなした制服。

 真面目くんはダサイというそれまでの偏見が、ぐるりと百八十度裏返ってしまうほど、先輩は見目麗しく格好良かった。
 
 そう。友永先輩は、真面目くんで格好いい。
 そして、それは友永先輩だからなのだ。

 他の人じゃ、駄目。


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