好きで悪いか!
 バツが悪そうに眉を下げる先輩。

「いえ、漫画描いてたら、普通そう思いますよね。私も……」

 言いかけて、失言だと気付くも遅し。

「何?」

「……先輩が、園田先輩とこそこそノートのやり取りしてるの見て、『イチャイチャしてる』って決め付けて、ムカついてましたらから。おあいこってことで」

 いや、本当にイチャイチャしてたんだとしたら、不平等だよな。
 思い出したら、またネガティブが発動しそうだ。

「ごめん。あれは、方程式の解き方を説明してた」

 先輩は端的にそう答え、話しづらそうな顔をした。

「……あのさ、帰りながら話さない?」


 図書館の建物を出ると、蝉も鳴かないほどの殺人的な陽射し。
 朝通ったときには、耳をつんざくほどの大合唱をしていたのに、なぜか静かだ。

 ただ、ジリジリとアスファルトが焼ける音が聞こえてくるようだ。


「古賀さん、日傘は?」

 日傘?
 そういえば、園田先輩は持ってたな。そんな女子力、私にはない。

「持ってません」

「じゃあ、これ使って」

 ひょいとトートバックから取り出された、折りたたみの日傘に、目を丸くした。
 綺麗な折り目のついた、上質そうな日傘。

 ふと思い出すのは、バス停での拾い物。あれもピシリと上質な風呂敷で包まれていた。

「友永先輩、日傘差すんですか?」

 男なのに。凄い女子力。
 もしくは、園田先輩にいつでも貸せるようにと持ち歩いてるとか?

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