好きで悪いか!
 門扉を抜け、煉瓦が敷き詰められた遊歩道のようなアプローチを歩いて、建物の玄関に辿り着くまでが、また距離がある。
 家というより「館(やかた)」と呼んだほうがしっくりくるような、豪邸だ。

 ででんと構えた玄関を目の前にして、緊張感が増した。喉が渇いて、干からびそう。
 今さらながら思う。先輩って、御曹司じゃん。

 玄関の鍵を開け、「ただいま」と言って先輩が帰ると、女の人が姿を見せた。

「お帰りなさい。こんにちは、可愛い後輩さん。綾仁の姉の志乃と申します」

 先輩のお姉さん!
 そういわれれば……似てないけれど、先輩と同じ匂いがする。漂う気品に、凜としたオーラ。


「こ、こんにちはっ。古賀みやびと申します。よろしくお願いします!」

 背筋を正し、ばっと敬礼すると、志乃さんはくすりと笑った。

「こちらこそ、よろしくね。弟は無愛想すぎるから、下級生から恐れられてるんじゃないかって、心配していたの。こんなに可愛らしい後輩さんが慕ってくれているなんて、嬉しいわ」

「ああ、もう。出迎えるなり、ブラコン発揮するのやめてくれない? 引くから」

 先輩が嫌そうに言って、お姉さんを邪険に扱う。
 意外にも普通に「弟」な先輩を見れて、やっぱり得した気分だ。


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