好きで悪いか!
 志乃さんの脅し文句にぎょっとしたのは、私だ。じょ、女装写真!?

「可愛かった頃の」ということは、あれかな。赤ちゃんの頃、お姉ちゃんの服を着せられてたとか、そういうの。お姉ちゃんがいる弟には、よくあるある話だ。

 先輩が眉をしかめて言った。

「中一んときの、文化祭の話だろ。鬼の首取ったような顔して、いつまでもネタにしてんじゃねーよ」

 衝撃。
 友永先輩が「じゃねーよ」なんて言葉遣いをするとは、学校では想像もできない。


「あらやだ、おっかない。反抗期ねえ」

 肩をすくめ、志乃さんが去ると、先輩は大きく溜め息を吐いた。

「さ、じゃあ気を取り直して……ああ、どうぞ遠慮なく。冷えてるうちに」

 手に取りやすい方向に向けられる、フォークの柄。
 こういう気遣いがさらりと出来る男子って、そうそういないと思う。

「ありがとうございます。じゃあ、頂きます」

 ざくりと刺して、一口サイズに切られた梨を頂く。しゃくりとして、ジューシー。

「わ、すっごく甘い。高級梨だあ」

 口をついて出た感想に、先輩が不思議そうな顔をした。
 え、私なんか変なこと言った?

「梨、好き?」

「はい。先輩、嫌いなんですか?」

「いや、そうでもないけど。頂きものが沢山あるから、お土産に持って帰る?」

「えっ、いえいえそんな図々しいっ」

「いや、こちらこそ。食べきれないから、貰って欲しいっていうお願い、図々しいかな?」


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