好きで悪いか!
「何でやねん。逆に奢って。失恋して、失意のどん底にいる私に、奢って? よくもまあ、抜けぬけと仰いますねえ」

 これは八つ当たりかもしれないけれど。
 なんの悩みもなさそうな、晴れやかな雅紀の笑顔に毒づいた。

 友永先輩と対極に位置するような、だらりと着こなした服装。半袖シャツの胸元までボタンを外し、ネクタイは非常にだらしなく緩結び。

 首からぶら下がるシルバーチェーン。耳にはピアス。手首にはブレスレット。明るく染めた髪は、不均一でエアリーなアシンメトリー。
 いつの間にか、「イマドキDK」に進化を遂げた、隣人。


「え、失恋って。例の生徒会長様に?」

 咄嗟に見せる、素の表情は昔と変わらない。

「そ。だからアイス奢って。慰めて」

「おう、分かった。って言いてーとこだけど、今日マジで金欠でさ……パピコ買って、半分コしねえ?」

 マジか。外見イケてても、貧乏とは冴えない。
 まあ、どこかイケてないほうが、雅紀らしくて安心するけれど。

「しょぼ」

「しょぼ言うな。奢ってやろうっつってんのに。そういう可愛げのなさが、良くないんじゃねーの?」

 分かってるけど、コイツに言われる筋合いはない。
 大体、私だってTPOは心得ている。友永先輩の前では、ちゃんと猫被ったさ。

「可愛げなくて結構です。パピコ半分で恩着せがましいなあ。いーよ別に、自分で丸々買うし」

 プイとしてアイスの冷凍庫を開けて、手を伸ばす。

「んじゃ、半分ちょうだい。ほら、この可愛げ、見習えよ」



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