好きで悪いか!
去って行く園田先輩の背中を見送っていると、またドアの開く音がした。
振り向くと友永先輩が立っていた。心配そうな顔をしている。
「沙織に、何か言われた?」
「あ……、えっと……」
どうしよう。嘘は吐けないし。
「友永先輩と別れたって。でも私のせいじゃないからって……。本当ですか?」
ずばり聞くと、友永先輩は気まずそうな顔をして、肯定した。
「うん、その通り。俺と沙織の問題だから、君には関係ない。気にしなくていいよ」
と言われましても、気にならないわけがない。
とりあえず入ってと言われて生徒会室へ入り、先輩に尋ねた。
「なんで別れたんですか?」
「……さあ。俺が別れようって言ったんじゃないから、分かんないな。すれ違いかな。まあ、お互い受験生だし、恋愛にうつつ抜かしてる時期じゃないってのが大きいかも」
淡々と説明しながら、机の上に広がっている資料を整理する友永先輩は、いつになく近寄りがたい空気だ。
これ以上、この話題に踏み込んでくるなと言いたげだ。
さすがの私も空気を読んで、口をつぐんだ。
先輩がフリーになったからラッキー、なんて喜べもしない。
いつもどおり気丈に振舞っている先輩だけど、明らかに沈んでいるし。
それはそうだ。先輩は園田先輩が好きだったんだから。
誰もが羨むくらい、二人は仲が良くて、お互いに大事にしあっていて、理想のカップルだった。
「大丈夫? このデータを文字に起こして欲しいんだけど、出来そうかな?」
ノートパソコンを開いた先輩が、音声ファイルをマウスで示しながら、尋ねた。
「聞きながら、メモ帳にテキスト打ちしてもらうっていう、感じなんだけど。タイピング得意?」
「あ、はいっ」
生徒会長の顔に切り替わった友永先輩に、慌てて気持ちを切り替えた。
そうだ、お仕事の手伝いをするという名目で呼ばれていたんだ。
「座って。これ開いて、ここに置いとくね」
一つのパソコンの画面を見つめ、マウスを操作して説明してくれる友永先輩の顔が、すぐ隣にある。
ああ、私って本当にゲンキンだ。ドキドキしてしまう、この気持ちは誤魔化せない。