好きで悪いか!
 誰もいない放課後の教室の、黒板に書きなぐった。

『好きで悪いか! 好きで悪くても 友永先輩 大好きです!』

 文字にしてみて改めて思った。私の「好き」は、自己チュウだ。


 教室の扉が開く音がした。その方向に顔を向けて、呆然とした。
 同じく呆然とした様子の、友永先輩が立っていたからだ。はっとした時はすでに遅し、友永先輩は私の背後の黒板を注視していた。

「……あの、こ、これは……」

 言い訳しようもない。友永先輩のことが大好きで、開き直ってしまっている私の心境。
 立ち尽くしていた場所から、友永先輩がゆっくりと歩いてくる。

「話があるってメッセージ送ったんだけど、既読にならなかったから。もしまだ校内にいたらと思って、見に来た」

 まさか先輩が、一年の教室までわざわざ来るとは想定外だった。完全に油断してた。
 そこまで大事な話? いったい何だろう、ドキドキする。

「そ、そうですかっ、すみませんっ……そのお話って、」

 答えながら、慌てて黒板消しを取った。
 もっと小さく書けば良かった。黒板全体にでかでかと書きなぐっている文字を、消そうとした手を掴まれた。

「待って、古賀さん」

 えっ?
 驚いて固まってしまった。振り向くと至近距離に先輩。私の手を掴み、険しい表情で黒板を見ている。

「消さないで」

 拒否権はない気がする。離された手を、そろそろと下ろした。
 先輩は怖い顔をしたまま私が書いた文字を眺めている。

「……好きで悪いか。君の好きって、どうしてこうなの? 彼女がいても気にせず告白してくるし、変な噂が出回って、理不尽な嫌がらせされても、それでも俺のこと好きって言うの?」


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