好きで悪いか!

 先輩の家にお邪魔するたびに感じていた違和感が、確信に変わった。
 先輩と、お姉さんの志乃さんは血が繋がっていないのか。


「姉の母親は女優崩れでね。今でも東京への名残が強くて、父と再婚したものの殆ど東京にいる。別居してるようなもんだよ。父は父で、殆ど家には帰らないしね。俺が八歳のときに姉が来て、まるで母親のように世話を焼いてくれたことに、感謝してなくもないけど。いつまでも母親面されても、鬱陶しいし」

 藤色の風呂敷に包まれた桐箱を眺める、先輩がうそぶいた。

 見覚えのあるそれは、例のアレだ。私と先輩の縁を取り持ってくれた、金のぶんぶく茶釜が入っている。
 先輩の家の大きなダイニングテーブルに置かれているのを目にして、あのときの話に触れたのが間違いだった。

「志乃ちゃんが家を出て行くの、淋しいでしょうって親戚連中は言うけど。一人の方がいいに決まってる。古賀さんも、誰もいないほうが気兼ねなく来れるでしょ」

 志乃さんはもうすぐ結婚するそうだ。
 明後日の日曜日が結納で、そのときにこの金茶釜と金杯で両家がお茶を飲むというのが、友永家に代々伝わる慣わしだそうだ。
 さすが名家、おごそかな風習だ。

 それを聞いて、はっと思い当たった。
 そんな大切な家宝のティーセットを、バス停に置き去りにしたのは先輩だ。

 志乃さんの結納で使われると知っていたのに。――知っていたから?


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