好きで悪いか!
 調子のいい隣人に送られて、家に到着。

 二十軒ほど並び建つ住宅街の一角。停められた自転車から降りて、前カゴから荷物を取る。

「ありがと。またよろしくね」

「あ、待って。あのさあ」

 思い立ったように、雅紀が引き留めた。

「失恋したって言ったじゃん。俺と付き合わねえ? 明日から夏休みだし」

 は?

 思わずフリーズして、雅紀を見つめ返した。
 汗だくで、シャツが少し透けている。ああ、そうか

「暑さでヤラれた?」

「アホ。人が真剣に告ってんのに、茶化すなよ」

 ちょっと待ってちょっと待って。真剣に告ってんの?
 それにしては、胸に響くものがない。

「明日から夏休みだしって、何?」

「暇じゃん。それに、夏と言えばー? フェスにビーチに、海に、花火にスイカだろ。そんな楽しいイベント目白押しの夏にシングルって、青春損してる気しねえ?」

 あまりのリア充思考に、呆気に取られた。
 言いたいことは分かる、けどそれって

「要は、夏イベ楽しめるなら誰でもいいってことでしょ? じゃあ、他当たりなよ。私はいいよ、シングルで。先輩と会えない夏休みは、ひたすらバイトするって決めてるから」

 そこまで言って、はたと思った。こいつ夏休み満喫する気満々だけど、軍資金あんの?

「雅紀も暇ならバイトしなよ。暇だからって、適当な相手と付き合ったって、楽しくないと思うよ」


< 8 / 62 >

この作品をシェア

pagetop