アイドルとボディガード


この日の仕事はまだ日が明るい時間帯に終わった。
チャンスとばかりに帰りの車内でボディガードへ詰め寄る。

「ちょっと、帰り寄りたいとこあるんだけど」

「どこ?あんま人多いとこは無理だからな」

「藤川さんに誕生日プレゼント買いたくて」

そう言うと、早速目的地まで車を走らせた。
そうあれからちゃんと車で迎えに来てくれるようになったのだ。
どこかで見たことあるエンブレムだなと思っていたら、藤川さんが慌ててこれベンツだよって教えてくれた。

黒い車体に、車内も高そうな黒い革張りが張ってあった。
なんでまだ20半ばの奴がこんないい車乗れるのか、疑問で仕方がない。
経歴不詳なのがまた不気味で、人1人殺したことあるんじゃないかとさえ思ってしまう。

まさか、本当の稼業は殺し屋?

殺人事件の第一発見者如く、彼の顔を見て慄く。

「……そのむかつく顔やめねぇと、ここで降ろすぞ」

「はい、すいません」

本当に降ろされそうで、すぐに借りてきた猫のように大人しくする。

高級車だけあって走行音がすごく静か。
曲もラジオもつけないから車内が静か過ぎて、会話のないこの雰囲気が非常に気まずい。
ま、こんなに気を使ってるのは私だけなんだろうけど。
奴は誰かと2人きりになった時に会話がなくても別に気にしなさそうだし。



とある百貨店に入り、お目当てのブランドショップへ。
藤川さんがよくここのブランドを持ってることから、外れはないだろうということで選んだ。

「どうしよう、ネクタイどっちがいいと思う?」

紺と青のストライプのネクタイと、渋い赤色の小さなドット柄のネクタイを両手に奴に聞く。

「どっちでもいいだろ」

「うーん、藤川さんに似合うのはこっちかな?でもなー」

「あと5分で決めろ」

「え、無理!」

奴に急かされ、結局ネクタイは決められず、ネクタイピンを買ってきた。
しかし、ネクタイピン一つでも諭吉様が消えてしまう位の値段。
高校生の財布事情にはきつい出費だ。
しかし、日頃お世話になっている藤川さんの為だと思えばなんぼのもんじゃい。

意気揚々と出てきたところで、好きなインテリア雑貨のお店が目に入る。
控え目に奴に聞く。

「あそこ寄っちゃだめ?」

「だめだ」

「少し、本当にすこーしだから」

「だめだって言ってるだろ」

「あんまりこうして、外出歩けないんだもん。ね、お願い!」

少ししょんぼりして頼むと、渋々と言った表情でようやく承諾してくれた。
アイドルになってからは、買い物は主にネットショッピングで済ましていた。
奴が私の買い物に付き合わされて至極めんどくさそうなのを尻目に、私は色鮮やかな雑貨に目を輝かせる。

< 12 / 67 >

この作品をシェア

pagetop