アイドルとボディガード
だけど1コール鳴らしただけで、すぐに賀川さんに没収されてしまった。
「何してんの?だめだね、これは僕が預かっておくから。そんなに不安そうな顔をしないで。まだ、手出ししないよ。ちゃんと皆揃わないうちにつまみ食いしたら怒られるからね」
「皆……?」
「今日はパーティーだって言ったでしょ?」
そう言ってにっこり微笑む賀川さんに、身の毛がよだった。
すると、ふいに部屋のベルが鳴った。
桐生……っ?
でもこんな早く、しかもコールしか鳴らしていないのに、彼は本当に来てくれるだろうか。
そもそも、どうして藤川さんにかけなかったのか。
もう私のボディガードじゃない彼が来てくれる訳がないじゃない。
というか誰にかけたとしても、社長以外誰も私がここにいるって分からないじゃないか。
今までにない窮地に、いつのまにか涙が出ていた。
そのベルの音はもちろん桐生が鳴らしたものではなかった。
ピンポーン
部屋へ鳴り響くベルの音。
一体これで何回目だろう、この部屋には何人の男の人がいるんだろう。
色々話しかけられたが、全て無視しただ下を向いていた。
私は絶望した。
嫌だ、早く、早く逃げ出したい。
「さぁ、千遥ちゃん。皆揃ったよ。パーティーを始めよう、ほらいつまでもそんなところにいないで」
無理矢理手首を掴まれ、引きずられるようにして部屋の中心へ連れてこられる。そして意気揚々に賀川さんが提案する。
「そうだな、まずストリップショーでもしてもらおうか」
「で、できません」
そう言うと、賀川さんの表情が曇り、私の頬に平手打ちが飛んでくる。
さほど強くはぶたれていないが私は慌てて、自分の顔を両手で覆った。
落ちぶれとは言ってもアイドルのはしくれ。
顔は商売道具と言っても過言ではないのだ。
「やめて。お願い、顔はぶたないで!」
「そうだね、跡が残ったりしたら大変だ。仕事に支障が出ちゃうもんね。ぶたれたくなかったら、どうしたらいいか分かるね?」
こくんと静かに頷く。
その拍子に大粒の涙が頬から首筋へ伝って行った。
「そんなに泣かないでよ、別に乱暴しようって訳じゃないんだ。君が大人しくしてればちゃんと優しくしてあげるからさ」
そう囁いて、私の首筋に口づけする。
その瞬間、ゾっと悪寒が走り体が震えた。