アイドルとボディガード
その後撮影は無事終わった。
あのシーンの後、監督から初めて笑顔でOKをもらえたのだ。
あれだけ指導されて一度も直接褒められたことはなかったが、最後に無愛想で怖い監督の笑顔が見れて良かった。
「小泉千遥さん、クランクアップでーす」
「ありがとうございました」
スタッフから拍手を送られる中、深々とお辞儀をする。
こうして私の初ドラマの仕事は終わった。
「千遥ちゃん、最初はどうなるかと思ったけど最後までよく頑張ったね」
藤川さんも一段落いって安心しているようだ。
「うん、ちょっと今回は辛かったな」
そう言って苦笑する。
今回のドラマの仕事は、芸能界入って最大の試練だったと思う。
「演技は、もうこりごり?」
「ううん、チャンスがあるならまた頑張りたい」
「良かった。実はね、またあの監督が映画撮りたいって言ってるらしくて、出演者に千遥ちゃんどうかって名前上がってるんだって」
「本当!?」
「まだ決まってないけどね。でも決まらなくても、ドラマの評判のおかげでまた仕事が増えて来てるんだ。前よりも忙しくなりそうだから覚悟しておいてね」
嬉しい、良かった。
まだ仕事がくる。
まだここでやっていける。
嬉しいはずなのに……、
少し複雑な思い。
私は少しでも気が紛れるようにと、仕事に没頭した。
そしたらいつか桐生のことも忘れることができるんじゃないかって。
だけど、どんなに桐生のことを忘れようと思ってもできなかった。
やっぱり桐生に会いたくて、声が聞きたくてしょうがない。
そう胸が締め付けられる度に、私はこんなに桐生を好きになっていたんだと思い知らされる。